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  第34話  またやっちゃった

2009.9.24


またやっちゃいました。

 終盤で簡単なミスして、碁を負けにすることではない。最近ではそういうことが毎回のように続き(と自分で思っている)常態化していることを「またやっちゃった」とは言わない。

 メイエン事件簿をサボっているうちに、おいしいネタがどんどん賞味期限切れになってしまった事でもない。思えばこの事件簿をつけ始めたのが、四年前のあの郵政選挙だった。今度の政権交代を何もしないまま見送るのは、事件簿としてもったいない極みではあるが、「やっちゃった」というのは、なんとなく時間的な緊迫感があるもので、いつでもやっていいことをずるずる見過ごすのは、間抜けではあるが「やっちゃった」という感じではない。

 なにをまたやったかと言えば、また無勝負をやっちゃったのです。僕はいままで公式戦で無勝負を実質二回 やっています。両方とも早碁における四コウ、


図1

 両コウが二つ出来て、そこで

 


図1
       
                      

図2

 白1とやって行って黒4のあと、また黒2の下と両方で延々と取りっこするやつです。

     


図2

 「実質二回」はどういうことかというと、二回目の四コウが出来たとき、優勢だった相手が無勝負にするか、どこかの両コウゆずるか、秒読まれながら考えているうち、黒4にとるべきところ、間違って白3の横を取り返したようなことをしてしまったため、僕の反則勝ちになったからです。

 むかし研究会で呉清源先生に教えていただいたとき、三コウ無勝負になったことがある、そのとき呉先生は「初めてだ」と言って喜んでいました。無勝負の碁は一生に一度出来るかどうかぐらい珍しい、そういう意味でそれが出来るときはなんとなくおめでたい、というふんいきになる。

 それなら「またやっちゃった」って事もないと思われそうですが、無勝負もめったに出来ないからいいのであって、僕みたいに五年の間に三回も立て続けに出来ると、ちょっと気が引けるのです。

 一回目の無勝負のときはテレビ対局でした。四コウはめずらしいということで、無勝負の碁は放送されたのですが、打ち直しの碁を放送する枠がない。日を改めて、日本棋院で誰にも知れず打ち直しの対局したのですが、事務局には余計な仕事。一局打つのにも立会いから記録、勝負確認係など、たくさんの人手がいる。無勝負って意外と迷惑かけるもんなんだなと思ったものでした。そのため、二回目の四コウもテレビ棋戦でしたが、無勝負にならなかったことにちょっとホッとした。そのかわりもっと妙な結末になったものだから、もう無勝負はやりたくないと、ほかの人から見れば贅沢な考えを持っていた。

 そこで、こんどの無勝負だが、テレビ棋戦ではない。富士通の予選で、持ち時間一時間、一分単位で五分の秒読み。午前十時に打って、勝ち上がったら、午後二時半にもう一局打つ、という対局スケジュールになっている。

 僕は午前の対局で幸い勝ちあがって、午後にそれを「やっちゃった」のだが、その午前の対局がなんと、午後二時過ぎまで打っていた。普通遅くなっても一時半ごろには終わるものですが、コウをやっているうちにそういう時間になった。「メイエンも碁が好きだね」と先輩にひやかされたものでした。

  頭がフラフラぎみで二局目がはじまったが、悪いことに相手が若い上に強い。

図3

僕の白番。黒1とつなぎ、つぎAと本コウに行く準備である。そして、黒Aにこられたら、もう無勝負になりそう。


図3

図4

 無勝負を嫌って白1とコウをとれば、黒2におされそう。左上隅は一手ヨセコウの形ですが、これをどのぐらい負担と見るかは碁の一番よく分からないいところ、とにかく、これでは自信がもてない。それよりも、もう僕はつかれているのです、これは無勝負にして、早く家に帰ろうと思った。


図4

図5

  実戦は白1につなぎ、黒2を催促した。いまなら黒4が唯一のコウダテ、
黒6でAのところ取返したのち


図5

図6

   今度は白1が自慢のコウダテ、白3に抜くと、丁度5図白3と抜いた状態とまったく同じになります。そこで黒がもう一度5図黒4とコウダテすれば、
5図と6図が無限にくりかえされるため、無勝負ということになりました。

 この回を書いている途中に分かったのですが、週刊碁にこの碁が載っているようです。公式戦で二度目の「長生」ということでニュースになったようだが、「長生」の典型的な形は

 


図6

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これを


図7

図8

 黒1のホウリコミにたいして、白2が妙手、黒3のあと、白4で7図の状態にもどる。これを延々とやると無勝負になる。


図8

 実戦もこのように石を二つずつ取り合ってるケースですが、コウがからんでいて、そのまま「長生」というのは、少し違和感がある。「長生劫」見たいな名前をつけてみてはどうでしょう。

 まあ、名前はどうでもいいのだが、とにかく朝からコウ続きで僕はくたくたなんだ、もう帰らせてくれ、と勝手に思ってたんだが、なんと、打ち直しはこの場で引き続き打ってほしい、というぐあいらしい。この棋戦は次の日程が決まっていて、予備日がない上、さきほど説明したように、改めて打つというのも大変だからです。

 打ち直しは半目勝負、終局は八時半、もう呼吸する以外何も余力が残ってない感じ、でも疲れたのは対局者だけではない、碁が終わったのを待っていたとばかりに会場をかたづけ始めるスタッフもおなじだ。普通は六時には全対局が終わるところ、この残業代はもらえるかどうかが妙に気になった。

 ほんとう、もう無勝負はこりごりですが、こうなったらもう一回ぐらいやって、ギネス申請する、という手もある。

 メイエン

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王 銘エン(おう・めいえん)

昭和36年11月22日生。台湾・台北市。50年11月来日。52年入段、平成4年九段。
平成12年第55期本因坊戦で、趙善津本因坊を破り、タイトル戦初登場で初のビッグタイトルを奪取した。13年第56期本因坊戦では、張栩七段の挑戦を受け初防衛。14年第50期王座戦で趙治勲王座を破り王座位を獲得。19年、第2回大和証券杯ネット囲碁オープン優勝。

主な著書に「ヨセ・絶対計算」 (毎日コミュニケーションズ)、「ゾーンプレスパーク」(日本棋院)など。


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